新しい言語学

手紙8

     月本洋先生への手紙  

月本洋先生

先日「日本語は論理的である」を読みメールさせていただきましたが、その時書きましたように「日本語に主語はいらない」を取り寄せ読ませていただきました。
そして、またまた、気づいたのですが、この時すでに「動」と「働」の混同があったということです。先生のご本には「働」という漢字(日本製の漢字ですが)が見当たりません。何かお考えがあるのでしょうか。

日本語としては「動」ではなく「働」であるべき場所は以下の通りです。
P6.1、P29.1、P38.4、P39.5,P42.3,P56.2,
P101.6,P116.1,P194.4,P219.1

私は言語学ではなく、言葉の音の人に与えるイメージ、すなわち、「語感」の研究をしている者ですが、言葉を構成する音の要素、すなわち、音韻(音素)について、先生が大きな誤解をしておられるようですので以下ご説明します。
なお、「日本語は論理的である」は勿論「日本語に主語はいらない」についても先生のお考えには大賛成です。したがって、小さな欠陥も残念に思われますので、あえてご意見申し上げます。
先生は P187.で「母音は基本的に声帯を動かす段階で生成される。子音はその後の舌、唇、歯などの形を変えることで生成される。」とおっしゃっていますが、これは間違いです。
「声帯を動かす」の意味がはっきりしませんが、声帯を震動させるということであれば、子音にも声帯を振動させるものがあります。有声子音といわれる濁音、並びに、N,M,R などは声帯を振動させます。
「声帯を動かす」の意味が、声帯を開いて息を通すという意味であれば、母音だけでなく子音も息を通さなければ音が出ません。
ひょっとすると、先生は母音は声帯で出てると勘違いされているのかもしれませんが、声帯で作られた震動が声道(口腔等)で共鳴してはじめて母音になるのです。したがって、母音が生成されるのは子音と同様口腔周辺です。
母音と子音の違いは、共鳴音か障害音かの違いです。
勿論、母音も口腔内で調音されます。唇の形、舌の形等を変えることによって母音 ア、イ、ウ、エ、オ の違いを出しているのです。

私は母音と子音の違いは情報量の違いだと思います。
母音は共鳴音で自然音です。それぞれ豊かなイメージを持っていて情緒的です。
一方、子音は障害音で不自然です。その分際立ったイメージをそれぞれの子音がもっています。絞り込まれたという意味では知的で論理には向いています。
これらのことと、先生のおっしゃる「主体の論理」と「空間の論理」が対応していると思います。
主体の論理は直線の論理、言ってみれば単純な論理です。
空間の論理は二次元、あるいは、三次元の論理で複雑な論理です。
主体の論理は子音的、空間の論理は母音的です。

先生が英語も古くは主語がなかったとおっしゃっていますが、私は何か一神教とも関係がありそうな気がします。一つの神を求める気持ちと主語を必要と感ずる気持ちが相通じるように思います。
ギリシャの昔は本質的には多神教でした。
一度、ヘブライ語の母音比重、人称代名詞出現頻度を調べると面白い結果が出るかもしれません。ちなみに、現在の一神教、すなわち、キリスト教、イスラム教の元祖はユダヤ教です。(そういえば、アラビヤ語は母音が三つしかなく、表記もしないのだそうです。)

最後に、蛇足ながら、人生の先輩として、一つご注意したいことがあります。
「日本語に主語はいらない」のP30.「かってある天皇が、京の町から ・・・」の表現は問題があります。
仁徳天皇のことだと思いますが、日本語では、人々がよく知っている人物を「ある・・」と表現するのは、その人物を揶揄する場合、あるいは、軽蔑している場合です。
理屈はいろいろ付くでしょうが、これは日本語のクセの一つで、お避けになった方がいいと思います。
(ちなみに、仁徳天皇が眺めたのは、京都の町ではなく難波高津宮の周辺です。)
折角すばらしい研究をしておられるのに、変なところでケチを付けられるのも、もったいないと思いましたので、あえて直言させていただきました。
                            増田嗣郎
              平成21年7月29日

念のため、先日のメールを添付させていただきます。

月本洋先生

「日本語は論理的である」を読ませていただきました。
まだ、通読した段階ですが、非常によく分かり、得るところ大でした。
論旨にも、全く大賛成です。

このメールをさせていただいたのは、校正漏れと思われる箇所が何箇所か見つかったからです。2刷も間もなく出ることでしょうから、取り敢えずご連絡します。
何箇所かありますが、全て同じ間違いです。
「聴覚野が動く」は「聴覚野が働く」の方が日本語としては適切ではないでしょうか(動→働)。
気づいた所は、
P89.3箇所、P90.3、P185.2、P187.1,P189.4 です。

「日本人の脳に主語はいらない」も取り寄せしっかり勉強する積りですが、お願いがあります。
左右脳の実験を「子音だけ」、「虫の声」についても、やっていただきたいのです。
確か、角田先生の「日本人の脳」では、単母音と虫の声は同じ結果になっていたと思います。

もう一つ困ったことが起こっています。先生は(母音の聴き方で)母音脳は左脳、子音脳は右脳とされていますが、従来は、左脳が論理脳・言語脳で、右脳は情緒脳・音楽脳などといわれています。ずれがあるようですが、いかがでしょうか。

                 増田嗣郎
                  msiro@kjps.net
                          平成21年7月21日

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